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希望の行方4(特別な日の閑話休題)

「オスカル。」
執務室に入るなり、アンドレは呆れながら言った。
「少しは否定しないのか。」
窓の外から男たちの声が響いてきた。これから任務につく隊員たちだろう。ベルサイユのたいくつな一日は今から始まる。
「何故だ?」
部屋に足を踏み入れた勢いのまま、窓まで進んだオスカルが、外の様子を眺めながら平然と言う。
「ああ・・アランか。好きに言わせておけ、私は構わぬぞ。」
「奴らが勝手に噂をするのなら、俺も構わない。愛人呼ばわりは慣れている。だが、尋ねられたなら一応は否定してくれないか。」
低い声ながら、毅然とアンドレは言った。
「ここにはまだ、俺たちへの反感しかない。何がどう伝わるか分からないぞ。今が一番大事な時だろう、お前が・・俺たちが若い衛兵隊の連中に受け入れられるのは並大抵の努力では足りない、そうだろう?」
男の口調が翳りを帯びる。
覚悟はしていたが、愛する女性の選んだ道は茨の道だった。
赴任初日に全員のサボタージュに遭い、乱闘騒ぎを起こたのを皮切りに、連日の命令無視や規律違反に対して体を張ってきた。一度などは先ほどのアラン・ド・ソワソンと剣で勝負をするはめになった。
オスカルでさえ、危なかったほどの腕だった、とアンドレは度肝を抜かれたものだ。
そしてあいつはまだ、オスカルを隊長として認めていない。つまり火種なのである。その男に対して、愛人などという言葉を否定しないのは、さすがにどうかと思ったのだ。
だが、オスカルは平然と振り向いた。
「ああ、お前が愛人というのは、適切ではなかった。」
「・・だろう?」
「お前は、愛人ではない。私の・・・生涯の片割れだ。暇な貴族たちがお遊びで使うような軽い言葉は、お前に似つかわしくない。今度からは否定するように心がけよう。お前は愛人ではない、それ以上の存在だ、と。」
青い瞳は真面目だった。
それで、いいだろう、と語りかけてくる。
アンドレは、目を細めた。女の真っすぐな視線が眩しかったのだ。
・・・隠すなどしない、偽ることなど思いもしない人間なのだ。
彼は改めて思う。
オスカルは彼への特別な思いを、恥じるものだと微塵も感じていないのだ。元々、偽りを装うなどという芸当のできない性格である。フェルゼンへの思慕を募らせていた時期も、身近にいたアンドレの目は、とうとう誤魔化せなかった。
アンドレは胸の奥が熱くなった。
嬉しかった。平民の自分への思いを素直に口にする彼女の態度が堪らなく嬉しかった。
だが・・。
・・・だが、オスカル。俺はお前の一生すべてには寄り添えないんだよ。
アンドレはこぶしを握り締めた。
・・・近い将来、俺は命を落とすのだろう。俺はその未来を知ってしまったんだ。そんな運命が俺たちを待ち受けているのなら、俺はこの命を、お前のために使うつもりだ。だから・・あまり素直に俺を見るな。
恐らく自分は困った表情を浮かべていたのだろう、目の前のオスカルの瞳が不機嫌になる。
「それもダメなのではあるまいな?難しい男になったものだ。」
「・・すまない。」
子供のようにすねた瞳でオスカルが見上げてくる。それが何だか子供頃の懐かしい彼女のようでもあり、アンドレの頬に自然と笑みが浮かんだ。
「気難しい人間とずっと生きてきたからな、似てしまったんだろう。」
「・・誰のことだ?」
ムッと低くなった声が尋ねる。
「それは・・ばあやのことか?それとも父上か?・・・まさか私のことではあるまいな?」
ジリジリと彼女はアンドレとの距離を縮めてくる。逃げ腰のアンドレは、自然に廊下に面した扉へと後ずさる。
「白状したほうがいいのではないか?それとも剣で勝負するか?ん?」
「・・・すまない、失言だった。」
アンドレは慌てて謝る。
「気難しくなどない。とても素直で正直な人間だよ。高潔で、この上なくやさしくて・・それと・・ええと・・」
真っ赤な顔が近づいてきて、彼はまた微笑む。この鬼の形相を愛おしいと思う自分が、とてつもなく幸せな人間に思えたのだ。
「それと・・すごく綺麗だ。今の顔も。」
「馬鹿もの!」
耳元で炸裂する。
「ここをどこだと心得ておるか!アンドレ!」
アンドレの背中が扉に当たった。
ふと人の気配を背中に感じた。扉をたたく響きがしたのだ。恐る恐る開けてみる。
「あ!」
品の良い顔と手入れの行き届いた髭が目に入った。副官のダグー大佐だった。
「し、失礼いたしました、隊長。」
人懐っこさを残した瞳が、まずい時に居合わせたというように泳いでいる。
「幾つか伝達事項がございましたので参りましたが、急ぎではございませんので、出直して参ります。」
「いや、出直すには及ばない。」
何事もなかったように、オスカルが答える。
「再度ご足労をお掛けするのは申し訳ない。こちらは構いませんので、どうぞお入りください。」
「・・・しかし。」
「大佐、お入りになって下さい。」
アンドレも従者兼部下の顔に戻り、大佐のために慇懃に扉を開けて待つ。
気の毒な大佐は、目に見えて逡巡していたが、落ち着き払ったオスカルの態度と、大人しく扉を押さえているアンドレに交互に視線を走らせると、咳ばらいを一つして、諦めたように部屋に足を踏み入れた。
チラリ、とオスカルが大佐の死角から目で訴えてくる。
後で覚えていろ・・そう言っていた。
だがそれも一瞬で、彼女はすぐに大佐との会話に没頭し始める。
扉を静かに閉めたアンドレは、笑いとため息を押し隠しながら、自分もまた補佐をすべく、彼女の後ろに歩み寄る。
そうして、今日が始まった。




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No title

真っ赤な顔のオスカルに詰め寄られて・・・内心ドキドキ(に違いない!)のアンドレ・・・!
ステキなバースデープレゼントですね( *´艸`)

嵐の前の、心和むひとときを、ありがとうございます!(*´▽`*)

あんぴか様

ギリギリ26日に・・滑り込みセーフ?
(公開は27日ですが、26日中に書き始めたのでセーフかしら?いやセーフに違いない!)

今回の二人は、バカとかトンマとか言い合った若い頃のような掛け合いでした。
お誕生日おめでとう、アンドレ。

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す・・・様

アップをお待ち頂いていたのですね!
ありがとうございます。
サービスでダグー大佐も登場して頂きました!

それはもう、女心も男心も部下の心も無傷ではおれませんよ~
覚悟しておいて下さいね~

あま・・様

お誕生日バージョンでした!

本当なら今回からハードに進めていく予定でしたが、
まあ、次回からでいいよね・・ということで。

しかし、全く話が進んでいないので、甘々は今回で終わり!
次回からもよろしくです!


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ポ・・様

お読み頂き、ありがとうございます!

職場で二人は何をしているのだ、という感じですね・・。
今回だけですよ、今回が特別ですよ、
このサイトでこんな甘々が続くとお思い?
次回からは、汗が流れ、血が飛び、涙にくれる衛兵隊生活が始まるのですよ、
覚悟なさい、アンドレ!
そして、アンドレファンの皆さま!

ジワジワと更新していきます。
私も気を引き締めていきますね。

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ポ・・様

再度のコメントありがとうございます。

(やはりアンドレファンでしたね・・)

私もアンドレに辛く当たりたい訳ではないのですよ、
断腸の思いで、仕方なく、サイトの性格上、や、やむ終えず・・た、楽しいし・・

耐えて下さい!
では、また次回!

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はな・・様

初めてのコメントありがとうございます!

拍手も頂いていたのですね、ありがとうございます。
こうして感想など頂戴できると、とても新鮮な気持ちになります。

二次創作なんて、原作者さまからしたら邪道以外にないのだと分かっておりますが、それでもハッピーエンドを夢見てしまうのですよね。なので広い心で邪道を看過して頂いてるこの身ですから、せめて原作の雰囲気は壊すまい、力不足でも壊すまい・・ええ、壊しませんとも!という覚悟が・・・ほんの少しですがあります。
(充分壊れているかもしれない、という自覚もないことはないのですが・・)

この先どうなるか分かりませんが、出来るだけハッピーエンドになりますように、と私も祈っておりますので、これからもお楽しみくださいね。

では、また!
プロフィール

kakonokaori

Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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