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運命の分かれ道29

・・・いやだ、アンドレ、やさしいお前が、なぜ?何を言っている?
まさぐるように素肌に触れてくるアンドレは、うわ言のように「思い出してくれ、愛しているといってくれ。」と繰り返していた。
「・・・ああ」
恐怖が、羞恥がオスカルの全身に広がる。
なのに・・・熱い吐息もこみあげてくる自分もそこにいた。
毎夜、夢の中で彼に抱かれる中で感じる快楽が、恥知らずにも、顔をのぞかせてくる。
・・・だめだ、アンドレ、このままでは・・・お前も私も地獄へ落ちてしまう。許されぬのだ、許されぬ・・・
オスカルは、涙を流しながら必死に逃れようとした。
気がふれたかのように自分を離すまいとするアンドレの胸を押し、背を向け、寝台の支柱に必死に手をのばす。だが彼は、彼女の腕を背後からつかみ、残骸のようなブラウスをそこからはぎ取った。
「・・・頼む、逃げないでくれ、オスカル・・・思い出してくれ、お願いだ・・・」
むき出しの彼女の背にさらに狂ったようにくちづけを繰り返す彼に、オスカルは叫んだ。
「やめろ・・・!アンドレ、やめてくれ!」
力をふりしぼり、男の胸の下で身をよじり、彼と向き合う。
「私は・・・お前を憎みたくないのだ!このままでは・・・どうなるか分かるだろう?お前は・・・私のそばにはいられなくなる・・・」
冷静に告げるオスカルに、熱い光を帯びた黒い瞳がむけられた。
アンドレは・・・泣いていた。
その涙は、傷ついた左目からも静かに流れ、彼の頬を伝って雫となり、寝台に仰向けに倒されているオスカルの顔に落ちてくる。
「あ・・・オスカル、俺は・・・」
黒い瞳に、苦悩がのぞいた。
「・・・一度だけで、いい。お前のその口から・・・愛していると・・・ただ一言が欲しいんだ・・・。苦しい、苦しくてたまらないんだ・・・」
「なぜ・・・?お前こそ、私を愛してやいないだろう・・・違うか?」
オスカルは、ささやいた。アンドレの涙など目にしたのは、子供の頃以来であった。無邪気に遊んでいた少年の時には、オスカルに泣かされ、ばあやに叱られ、隠そうともせず大泣きしていた。それが・・・いつからだろうか、多分、使用人としての立場をわきまえ始めた辺りから、オスカルはパッタリと彼の泣き顔とは無縁になった。
・・・いや、違う。黒い騎士に片目を打たれたお前は、これが私の目でなくてよかったと泣いていた。やさしく私を見詰めながら、涙をにじませていた・・・。
「お前が・・・お前が愛しているのは・・・ロザリーではないのか?私は、ただお前の主人ではないのか?ベルナールの前で・・・私を主人と呼んだ。それだけなのだろう?それだけで、私のそばに居続けたのではないのか?」
オスカルの口から、自分でも意外な言葉が飛び出してきた。心の奥で密かに危惧していたことが、止める間もなくあらわになる。驚きが、アンドレの目に浮かんだ。ゆっくりと首を振りながら、彼は言う。
「・・・なぜ、ロザリーと?彼女は、友人で妹のようなものだ、大事に思うが、愛してやいない。俺が愛しているのは・・・お前だけだよ、オスカル。この世でただ一人、俺が愛せる女性はオスカル、お前だよ・・・」
「・・・アンドレ・・・」
オスカルの体が震えた。言葉を失った彼女の頬を、アンドレは両手で包み込む。
「愛している。愛しているんだ。どうか、お前も・・・そう言ってくれ。」
哀願の響きに、オスカルはかたく目をつぶり、顔をそむけ拒絶した。そのまぶたの裏に、フェルゼンの憂い顔が浮かんだ。
「ああ」
アンドレの悲哀に満ちたため息が聞こえる。彼はその手を、オスカルの胸のふくらみに置き、次いでくちびるを寄せてきた。
その瞬間、くぐもった悲鳴が彼女の喉からこみあげてきた。
アンドレは、胸の一点を、愛おしむように口づけている。そこから、快楽だけではない鋭い刺激が亀裂のようにはしったのだ。既視感が、オスカルを襲った。脳裏にありえない記憶がよみがえる。
それは・・・この寝台の上で男女として結ばれたアンドレと自分の姿だった。二人は体を一つにしながら、歓喜のまなざしを交わしあっていた。その幻は、別の記憶・・・暗闇に蛍が光り、かすかな水音と水の匂いの中で激しく抱き合う二人の姿に移っていく・・・。
「ああ、アンドレ・・・!」
目を開けた彼女の視界にまず入ったのは、自分の胸の上の男の黒髪であった。
・・・この髪に、私は腕をまわした感覚がある。夢ではない、現実にだ・・・!
「アンドレ、答えてくれ。」
オスカルの鼓動が、破裂しそうなほど高まる。高まる音が、耳に響いてくるようだった。
「私と、お前は・・・以前にもこうしていたことがあるのか?抱き合い、褥を共にしたことが・・・?」
震える声に、アンドレはびくり、と動きを止めた。固唾をのんでいるオスカルに、ゆっくりと向けられた瞳は、暗かった。まるで地獄への入口であるように底が見えなかった。
「答えろ!アンドレ!」
彼の肩をゆさぶりながら、オスカルは絶望に叫んだ。もう答えは・・・分かっていた。
「オスカル、すまない・・・。」
苦渋に満ちたアンドレが、静かに言った。
「・・・そうだ。俺は、お前の・・・純潔を奪った。」
「・・・なぜ・・・いつ・・・?」
閃くものが、オスカルにはあった。アンドレに抱かれる夢を、毎夜自分が見だしたのは・・・、あれは。
「・・・エベーラの薬で、私が意識を失っていた時か・・・?そうなのか・・・?」
二人は寝台の上で、半身を起こしていた。ブラウスを引き裂かれ、奪われた肌をさらしたままのオスカルだったが、寒さは感じなかった。ただ信じがたい事実に、ぼう然とする。
アンドレは、まっすぐ視線をかえしていた。そして言った。
「その通りだ。俺はあの時・・・お前を抱いた。」
「卑怯者・・・!」
激しい怒りが、オスカルを襲った。右手をあげ、アンドレの頬を打つ。何度も、何度も。
「お前を・・・信じていたのに!お前を・・・私は、お前を・・・!お前のことを・・・」
手が痛くなるほど打ち続ける彼女に、アンドレは一切抵抗しなかった。何の弁明もせず、逃げもせずに、髪を乱している。
何の言い訳もない、その事実が、オスカルをさらに絶望させていく。
途絶え途絶えの泣き声は、罰をうけようとする者からではなかった。
信じる男に裏切られたと思う女の叫びとして、救いの光の見えない寝室に響いていた。

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あ・・様

コメントありがとうございます。

避けては通れぬ場所に、いよいよ(ようやく)さしかかりました。
この先には・・・きっと救いがあるはずですので、ちょっぴり安心して下さいね。
まだ数回、ハードですが・・・

八・・様

いつもありがとうございます。

前半が地味だったぶん、ここからは盛り上がっていきたいと思います。
しばらく原作とは違う展開になるので、お覚悟下さいまし・・・!

八・・様もお風邪など召されませぬように。

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七・・・様

いつもありがとうございます。

はい、ご指摘のとおり、Sでございます。
このシーンを書きたいがため、頑張ってまいりました!

でもしばらく我慢をして頂ければ、ル・ルーの回になります。
不幸な結末には、決してなりませんので、ぜひ耐えて下さいね。

こ・・・様

コメントありがとうございます。

このサイトのストーリー展開はまるで「昼ドラ」ではないか・・・?
私自身、そう感じております。

ハラハラドキドキ、ありがとうございます。
この先も、ハラハラドキドキを感じて頂ければ光栄です。

お仕事の無事をお祈りしております。
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kakonokaori

Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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