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運命の分かれ道27

オスカルの手首を、フェルゼンは離さなかった。
・・・これが、報われぬ苦しい恋から抜け出すことのできる唯一の救いかもしれぬ。
逃れようとするオスカルの唇に、更に深く口づけていく。
彼女はやわらかく、甘やかであった。漏れる吐息からは、女の恥じらいとためらいが伝わってくる。
抱きしめる腕が、自然と強くなっていく・・・。
これは・・・フェルゼンにとっても予想外の、衝動的な行動であった。
あの舞踏会のことは、触れまいと、気づかなかったことにしようと、そもそも彼は決めていた。なぜなら、オスカルがあの外国の伯爵夫人であるとお互いに認めてしまった時が、自分たちの長きに渡る友情の終焉だと、フェルゼンは悟っていたからである。生涯で二度と手にすることがないであろう親友、であるのに。
彼女の女の部分に目を向けさえしなければ、絶望的な恋に足かせをはめられ、逃れようにも逃れられぬフランスでのただ一人の理解者を失わずにすむのだ。妹の馬車が立ち往生し、オスカルがソフィアと共にいることを知り、彼は良い機会だと思った。ソフィアの存在を介して、自然にいつものように振る舞える、と。それをオスカルも望んでいるのではないかと。
だが・・・。
このセーヌのほとり。
枯葉を散らせる風に、髪を、身体を晒しながら佇むオスカルは・・・儚かった。
いつもの自信と強気にあふれた彼女ではなかった。
ロザリーとアンドレの話ののち、黙りこくってしまったオスカルの横顔に、初めて線の細さを感じたのだ。今にも泣きだしそうな瞳で川の流れをみつめながら、必死に耐えている様子が見て取れる。
・・・寂しいのか、お前も。私と同じなのか?
背筋がしびれるように、彼は哀しく感じた。
・・・私もだよ、オスカル。私は心よりアントワネット様を愛している。あの方も私を愛してくれている。だが・・・あのお方には、家族がおありなのだ。私を愛しながらも、他の男の妻であり、他の男の子を幾人も生んでいる。ああ、いくら愛し愛されても、私は孤独だ。この孤独は・・・他の女たちでは埋めることができぬ。ソフィアや父、弟たちでさえ、もはや私を満たしてはくれぬ。・・・オスカル。お前も同じ顔をしている。毎晩鏡に映る私の孤独と同じものが、今お前の顔に浮かんでいるのだ。
フェルゼンは、オスカルの立場を思いやる。常に華やかで、国王夫妻の信頼も厚く、部下たちの信頼も手中にし、誰が彼女の幸せを疑うなどしようか。だが・・・。
・・・お前のようにまっすぐな気質、特異な立場で・・・真に信頼できる人間など簡単にみつかるものか。アンドレとロザリーは、そんなお前の大切な者達なのだろう?彼らがもし、二人だけの愛を育んでいるとしたら、オスカル、お前は・・・?男としてしか生きることのなかったお前は・・・?何も言わず、ドレス姿で私の前に現れたお前は・・・?
「オスカル?」
思わず声を掛けたフェルゼンに、オスカルは露に濡れたまつげをあげ、無言で見上げてきた。
フェルゼンは息をのんだ。
青い瞳の中に、今まで見たことのない色が揺らめいていたのだ。
孤独と、途方のない哀しみと、一人では生きられぬような心細さ・・・。
それが、必死に平静に見せようとする奥から、努力もむなしく滴り落ちてくる。
・・・オスカル、女であったのだな・・・
愛おしさが、突き上げてきた。
・・・お前は、こんな顔も持っていたのだな。今まで、もう十数年も、隠していたというのだな・・・。
後は、もう夢中であった。彼女の髪をかきあげ、驚き逃れようとする彼女に力ずくで、口づけを交わした。
・・・オスカル、お前となら、私は深い暗闇から抜け出し、生き直すことができるかもしれぬ。一度は、お前を女性として愛すれば、お前を破滅させるかもしれぬと懸念したが、お前を愛おしいと思うこの気持ちは、真実のものだ。
「あ・・・いや・・」
頭を振る彼女に、ささやく。
「黙って・・・オスカル・・・」
たわむれではない、翻弄するような男女の長い接吻の末、フェルゼンは、ようやくオスカルを解放した。
腕の力はまだゆるめぬ中で、彼女は荒く呼吸をしながら、戸惑っていた。もう抵抗はしなかった。その力も残っていないのかもしれない、フェルゼンの胸に頬をつけたまま、体を預けてくる。彼女はまだ初心な女性なのだと・・・男性と愛を交わしたことはないのだと、フェルゼンは優しく思った。
「・・・なぜだ、フェルゼン、なぜこんなことを・・・」
金髪が、彼女の汗ばんだ頬に張り付いている。まつげは伏せられ、震えていた。
「・・・違うのだ。私は、もう・・・」
「もう、何だというのだ?あの一夜のドレス姿は、私のためではなかったのか?なぜ、私の前にあの姿で現れたのだ?あの一度のダンスだけで忘れてもらえると思ったのか?お前は、美しすぎたのだ。今も・・・こんなに・・・」
フェルゼンは、涙が流れだしたオスカルの顔を、自分に向けさせた。
「分かっているのだろう?私たちは・・・もう元には戻れぬ。友人には戻れぬのだ。もう、引き返すことはできない、オスカル・・・」
彼は、北欧のまなざしを、厳しく温かく、彼女に注ぐ。
「・・・これからの生涯を、私と、共に生きてくれないか?」
涙にあふれた青い瞳の奥で、驚愕が揺れた。
言葉にならない言葉のかわりに涙をあふれさせるようなオスカルに、彼は微笑みかけ、さらに抱きしめる。
セーヌを渡る川の音も、通りかかる人の驚くような声もざわめきも・・・。
長い時を経て、ようやく交差したかのような二人には、ただの透明な存在であった。






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お読みいただきありがとうございます!

コメントありがとうございます。

「運命の分かれ道」もいよいよ盛り上がる局面に入りました。
作者も、「ま、まさか、フェルゼンと・・・!」とビックリしております。
今のところ苦情などは出ていませんが、(そもそも恐ろしくコメントの少ないサイトなのです・・・)
皆様、これはあくまで個人の楽しみ二次創作ですので、お許し下さいまし。

さて、果たしてこの先、どうなるのでしょうか?
楽しみにして頂ければ嬉しいです。
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kakonokaori

Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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