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運命の分かれ道26

・・・ロザリーが、馬でアンドレを追ってきた、だと?
オスカルは、フェルゼンの言葉に耳を疑った。
・・・ロザリーは、独りで馬には乗れぬはずだ。それなのに、アンドレのために・・・?
フェルゼンはあの日の出来事を、慎み深く、淡々と述べた。
街道で偶然にアンドレとル・ルーを助けたこと。その直後、馬に乗ったロザリーが猛スピードで現れたこと。そして・・・彼女がアンドレに抱きついたこと。
「どうやら、二人はただならぬ仲ではないかと思ったのだ。そして、オスカル、何か誤解があって、君が大事に思うロザリーのために、アンドレと喧嘩でもしたのかと。」
「喧嘩など・・・してはいないが・・・」
髪にまとわりついた枯葉を、もて遊びながらオスカルはつぶやいた。
「・・・知らなかった。いや、二人の様子がおかしいと思いはじめていたのだ。あまりに身近な二人ゆえ、気づくのが遅れたのかもしれない。やはり、あの二人は・・・」
愛し合っている。
アンドレと・・・ロザリーは・・・。
冷たい風がオスカルの中を吹いていった。
フェルゼンは、黙り込んだ彼女の横顔を見つめる。
「どうした?オスカル。」
「いや、なんでもない。」
フフ、と笑う。
「良い組み合わせではないか。ロザリーに手をかしてやらねばならぬな。いや、かさねばならぬのは、アンドレの方だろうか・・・奴は、私に付き合って妻帯せぬままきてしまった。随分ばあやにも心配を掛けているのだ。少し歳は離れているが、ロザリーと夫婦になれるなら、あいつも幸せだろう。」
口ではそう言いながら、セーヌの流れを追うオスカルの瞳に、寂しげな色が浮かんだ。
孤独。
現実が、彼女に教える。
傍らにいる男・・・フェルゼンは、彼女が初めて愛した男であった。もう何年も「愛している」と告げることさえ許されず、それどころか女として存在することさえできず、苦しい日々を送ってきた。愛する男性に愛されない・・・。オスカルの中の隠しきれぬ女性が、悲鳴をあげ、こらえきれなくなった時、ようやく彼女は行動したのだ。
それが、生涯に一度のドレス姿。
ようやく決別した恋心の隙間にいつの間にか入り込んできたのが・・・アンドレだった。
彼に何かを告げられた訳ではない。従者の彼に告げられようはずもない。ありえない、許されぬ、釣り合わぬ立場。それなのに黒い騎士の事件で、怪我を負いながらもパレ・ロワイヤルから自分を救いだし、憎さに我を忘れて黒い騎士を傷つけようとした自分を諌めてくれた彼に、オスカルは、どうしようもなく異性を・・・感じ始めていた。
・・・お前だけは、ずっと私のものだと思って安心していたのだ。女性としての幸せなど得られぬ私だが、お前はそばにいてくれる。夢の中では・・・お前に愛される。ああ、そうだ。私には、それが幸せだった。私は軍人として生きることに、不満などない。・・・たとえフェルゼンが私に振り向いてくれていたとしても、私は・・・彼に嫁ぐことはなかっただろう。普通の貴族の女性のように、屋敷の奥と社交のみで生きるなど、できぬ。一個の人間として、自由に生きてこそ、オスカル・フランソワなのだ。
オスカルは、空を見上げる。
・・・そんな私を、ずっと支えてくれたのが、アンドレ。お前は・・・フェルゼンの代わりではない。お前へのこの想いは・・・世界で唯一無二のものだ。愛している、などという簡単なものではない。いなくなっては不自由という、実務的なものでは尚更、ない。私はただ・・・私のためだけに、いて欲しい・・・。
鈍い雲が増えてきた。
夜には雨を迎えるのだろうか。風がオスカルの髪を揺らし続けている。
失って初めて、気づくことがある。常にあった幸せほど、手からこぼれ落ちるほどに、本当の価値が分かるのだ。
オスカルは、アンドレを失うことを恐れていた。
このセーヌ川のほとりで、フェルゼンの言葉で、はっきりと自覚したのだ。
・・・寂しい。
今までどんな試練に遭おうとも、フェルゼンへの想いにどんなに苦しもうとも、ついぞ訪れなかった孤独が、身にまとわりつき、オスカルの身も心も芯から冷たくする。
彼は、ロザリーを愛したのだ。
・・・おお・・・
突き上げてくる嗚咽を必死にこらえる。
誰かの前で・・・それがフェルゼンであっても、人前で醜態をさらしたくなかった。
「・・・オスカル?」
小声で、フェルゼンが呼んだ。オスカルは涙をこらえながら、彼に顔を向けた。
「・・・あ!」
驚きが、声にでた。フェルゼンが彼女の腕を捕え、もう一方の手で、彼女の髪をうなじからかきあげたのだ。
「何を、フェルゼン!はなせ!」
「やはり・・・お前だったのか、オスカル。」
抗うオスカルに、茫然とフェルゼンはつぶやく。
「あの貴婦人は、やはり・・・オスカル・・・」
オスカルは、彼から目をそむける。つかまれた腕を振りほどこうとする。だが、彼は離してくれなかった。
「頼む、離してくれ・・・!」
アンドレを想って浮かんだ涙を、隠そうとオスカルは身をよじる。だが、
「・・・泣いているのか、オスカル?」
フェルゼンは逆に力を強めてきた。その瞳に強い光が宿る。
「・・・あ・・!」
彼に強く抱きしめられたオスカルは、小さく叫んだ。その唇を、フェルゼンは覆った。
「・・・な、なぜ、フェルゼン・・・」
抗い、逃れようとする彼女は、それでも許されなかった。
・・・アンドレ・・・!
浮かぶのは、黒髪の従者の顔。
オスカルは困惑する堅い心で、彼の口づけを受け続けた。
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「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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