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運命の分かれ道21

緑の瞳の部下は、突然の質問に驚きはしたようだ。
だが、すぐにいつもの自信に満ちた笑顔を浮かべた。
「隊長、近衛隊に入隊するには、ある程度整った容姿が必要とされます。まして、こうしてあなたと共に職務についているのですから、客観的に見れば、自信を持ってよいのかと。」
「ふん・・・やはりお飾りか。」
オスカルは、先ほどまでの空も望めぬ細い路地からとは、打って変わった眺めを仰ぐ。思えば、近衛のどいつもこいつも毛並の良い貴族の子弟ばかりだった。決して実力を後回しにされた訳ではないが、隊員たちはまず揃って顔立ちもよく、上品であった。
・・・まあ、当たり前だな。王と王妃の身辺にはべる者たちだ。実力も容姿も選び抜かれて当然だ。このジェローデルとも長い付き合いだが、伊達男のように見えて、それなりに鍛えてある。私には従順だが、怒らせれば怖い奴だと噂もあったはずだ・・・。
しかし、と・・・以前から感じていた違和感がオスカルの胸にしこりのように現れた。
・・・私は、軍人として国境を守ったことも、他の国と戦ったことはない。つまり軍功というものが、私にはないのだ。もちろん戦争など無いにこしたことはない。オーストリアとの和平のために嫁いでいらしたアントワネット様をお守りするのも、匹敵するほど重要な任務だ。だが、父上は違う。戦いに赴き、かっては特殊な外交まで担っておられた。その結果の将軍職だ。反対に私はどうだ?どんな手柄を立てた?若き日の任務といえば、アントワネット様のパリへのお遊びの警護であったし、ジャンヌも生きて捕えることが出来なかった。あげくに、今は黒い騎士を逃がそうとしている・・・。私の近衛隊隊長という地位は、ひとえに父上とアントワネット様の御威光の賜物なのだ。でなければ、どれほど努力しようと、そもそも女の私に軍は扉をひらいてはくれなかった・・・。
自分が人並み以上に努力してきたのは分かっていた。
剣も勉学も実力は、恐らく三本の指に入るだろう。女であるということがハンデなら、立派に克服してきたと言っていい。
だが・・・それは豪華な宝石であつらえられた籠の中だけの話だったのだ。
貴族たちが自らの権力を保持するために自らで作り上げた特殊な小さな世界・・・。
・・・ベルナール、お前が正しい。
空を見上げるオスカルは、すがすがしいほどの敗北感に身を任せた。
敗北ではあったが、瞳に映る空は今までになく純粋な自然な色を湛えていた。そんな心境の変化を彼女は誰かに告げたい、と欲した。
・・・誰に?・・・アンドレ?
馬を止めた彼女にジェローデルは不審を感じたようだった。彼は馬を進め、少し距離を詰めてきた。
「隊長、何かご懸念でも?」
オスカルの心の中を覗き込もうとするような瞳に、彼女はふと、常とは違う態度だと感じた。だが、いつものように毅然と眼差しを向ける。
「ジェローデル、君は貴族とは何だと思う?」
再び向けられた質問に、今度は驚きを見せずに、彼は答えた。
「貴族とは・・・高貴な責任を負う者でしょうか。このフランスが大国であるには、軍事力と政治、外交が必要です。それを担うのは、選ばれた人間でありましょう。そのために我々貴族という存在が必要とされているのではないかと。」
淡々と語る声に、オスカルは返した。
「平民には軍事も政治も外交も担う能力がないというわけだな。では、もしジェローデル大尉、君が不運にも平民に生まれていたなら、君の優秀な実力は、発揮されずに埋もれていた、ということだ。となれば、私も有能な副官に恵まれず、苦労が絶えぬ日々を送っていたやもしれぬ。つまり・・・君だけでなくフランスも私も不運を免れたということだな。」
「特に私が望んで貴族に生まれた訳ではありませんが・・・」
上司の皮肉な言葉に、若干の困惑を笑顔で隠しながらジェローデルは続けた。
「もし私が隊長のお役に立てるのであれば、副官でなくともよいでしょう。従者でも馬ていでもお側でお仕え致したでしょう・・・そう、アンドレ・グランディエのように。」
アンドレ・グランディエ。
オスカルの顔が一瞬強張った。
なぜか、彼が侮辱されたように感じたのだ。貴族のように、ドが付かぬ名前を、当たり前のように呼び捨てにされる幼馴染。だが、直ぐに思い直す。ジェローデルのような生まれの男には、所詮アンドレの苦労を理解することなど不可能なのだ。自分でさえ、彼の苦労や辛さを全て知っているとは言い難い。
・・・片目を傷つけられても、私に笑みを向けてくれる。道を間違えようとしたなら、本気で諌めてくれる。お前の心根の美しさは、誰に知られる必要はない、私のものだ・・・。
そして、ロザリーの・・・。
視線を落としたオスカルの横で、ジェローデルが彼女の言葉を待っているようであった。だが彼女が厳しい横顔を向けたままであるため、軽いため息をつきながら、再び距離を空けた。その彼が何かに気付いたように、前方を指さした。
「隊長、あそこに馬車が・・」
ゆっくり歩きだした馬の進む道の先で、馬車が立ち往生していた。溝に車輪をとられたのか傾いている馬車を直そうとする御者の様子を、傍らの貴婦人が困ったように見ていた。
「あれは・・・」
オスカルは、貴婦人の名前を呼んだ。
「ソフィア嬢。」
それは、フェルゼンの妹であった。帰国のための馬車であろうか、屋根の上には多くの荷物がくくりつけられている。
オスカルたちに気が付いたのか、彼女は軽く手をあげた。
長年オスカルが思いを寄せた男の妹。
彼に似た面差しの、北欧の白い肌に、ゆっくりと安堵の色がひろがた。



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突然の訪問失礼します。

ブログ読んでる内に…ファンになってました(o゚▽゚)oなんかこう純粋な優しさを感じ、少し冷静さを取り戻せた気がします

今の私は、重い足枷が…心だけじゃなくて体までしんどくて…。
kakonokaoriさんも日々、苦労や悩みお持ちだと思うのですが相談とまで言わないので私の話聞いてもらえたりしませんか?

耳を傾けて頂けるだけで有難いです
お返事を本当に心から待ってます。
ご迷惑な様であればお手数ですがコメント削除しちゃってください。

ご訪問ありがとうございます。

お読み頂きありがとうございます。

頼って頂き恐縮ですが、なにせ僅かな時間の合間にこつこつ更新するのがやっとの人間ですので、
私の出来ることといえば、今後もこつこつ更新することだけなのです。

お話を聴くことは叶いませんが、どうかお心強くお過ごしくださいませ。
心よりお祈りしております。

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いつもありがとうございます。

毎日、ありがとうございます。

アニばらからはアコーディオン弾きの音を何気に拝借しました。

そして、ふふ、これからあの山場に向かおうとしております。

どうなるか私も楽しみです。

これからもお付き合い下さいませ。



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Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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