FC2ブログ

運命の分かれ道9

「お前、誰だ?」
その部屋にいた黒い髪、黒い目の男性が、いぶかしげに尋ねてくる。
・・・これが、黒い騎士ね。
ル・ルーは好奇心でいっぱいだった。
世間を騒がしている黒い騎士を、とうとう捕えたと、ル・ルーは感づいていた。だが、行動力溢れるこの少女に知られたら、どんな行動を起こすか・・・と用心したのか、オスカルたちの口が堅くて、何も教えてもらえなかった。もらえなかったのだが、ロザリーがさらわれ、アンドレが怪我までしたのだ。ル・ルーが何も知らないままで終われるはずがない。無人になったのを見計らって、忍び込んできたのだ。
部屋に入ったル・ルーを見て、その男はかなり驚いていた。
・・・まあ、仕方ないわね。こんなに可愛いレディーがいきなり現れたんだもの。
一人で納得して、彼女はズンズンと目的の人物に近づいていった。
「わたし?ル・ルーよ。ねえ、あなた、本当に、黒い騎士なの?何故捕まったの?怪我してるの?ねえ、教えて!」
キラキラした上目使いのル・ルーに、その男はどう接したらいいのか迷うように、頭をかいた。
「なんだ、このチビ。この屋敷の人間は・・・変な奴ばかりなのか?」
漏れた本音を、少女は聞き逃さなかった。
「あら、失礼ね。会ったばかりの人間を変だなんて決めつけるほうが、よっぽど変だわ!分からないことを尋ねているだけなのに。あなたが、黒い騎士だってことは、ちゃあんと知っているんだから。オスカルお姉ちゃまに捕まっちゃったんでしょう?おドジさんね。」
「ド、ドジとはなんだ、ドジとは!」
傷が痛むのも忘れて、男は半身を起こした。
「俺には、ちゃんとベルナールっていう名前があるんだ。なんだ、大の大人に向かって、その口のきき方は!そもそも子供が一人で知らない人間の部屋に、ノコノコ入ってくるんじゃない!」
「あら、知らない人じゃないもの。」
このベルナールって人、きっと物凄くおしゃべりな人なんだわ、とル・ルーは感じた。ニコリと笑いかける。
「ベルナールっていう、黒い騎士なんでしょう?正解?」
「せ、正解、いや・・・」
ベルナールはさらに髪をかきむしった。
「俺は、黒い騎士では・・・いや、その」
「黒い騎士じゃないの?」
「・・・それは」
「黒い騎士なの?違うの?どっちなのか、教えて!」
彼女が投げかける素直な疑問に、ベルナールは、突然のめまいに襲われたように首を振った。黒い騎士かもしれない男を前に、怖気づくことなくいる少女に、圧倒されたようだった。
「・・・ああ、そうだ、俺が黒い騎士だ。お前こそ、この屋敷の人間か?」
「ん~・・・そうね。」
ル・ルーは人差し指を頬にあてながら、考えた。
「ル・ルーのお家はここではないのだけど、この屋敷の人間かと質問されたら、そう、と答えるべきだわ。だって今はここで暮らしているんだもの。何故なら、ル・ルーのお祖父様のお屋敷なの。でも、この屋敷の人間だからって、お祖父様やオスカルお姉ちゃまと一緒にはしないで頂きたいわ。お二人とも、頑固ですぐ怒鳴るんだもの。ル・ルーはそんな短気なレディーにはならなくてよ。どちらかというと、ロザリーお姉ちゃまのように、つつましやかで強い女性になるのだもの・・・」
うっとりと、将来の自分の姿をル・ルーは思い浮かべる。そこには花畑で微笑む、やさしく美しい成長した姿があった。
「つ、つまり、お前は・・・ジャルジェ准将の身内なのか?」
めまいがひどくなったかのように、ベルナールは眉間をおさえた。
「そう、姪よ。」
答えながら、ル・ルーは内心がっかりしていた。
・・・なあんだ、黒い騎士って、意外に普通の人なんだわ。
お話に出てくるような冷静沈着で、すごいハンサムだと期待に胸をふくらましていたのだ。
・・・アンドレにちょっぴり似ている男前だけど、アンドレの方が上だわ・・・
まさか、少女に自分の容姿を値踏みされているとは思っていないだろうベルナールは、しげしげと少女を見つめた。
「あの女の姪?・・・全く、似ていないじゃないか。」
「まだ子供だもの。大きくなったら、オスカルお姉ちゃまのように、美しくなるのだもの・・・何か文句ある?」
「いや、ない。まあ、そうかもな・・・」
苦笑いのベルナールに、少女はさらに近づいた。
「ねえ、黒い騎士は悪い人なの?どうしてロザリーお姉ちゃまをさらったの?どうしてアンドレが怪我したの?そんな悪い人なら、どうしてロザリーお姉ちゃまが看病するの?本当は良い人なの?ねえ、どうして?早く答えてくれないと、ロザリーお姉ちゃまが帰ってきちゃう。」
「子供がそんなことを気にするもんじゃない!それに世の中は、良い悪いで簡単に決めれるものじゃないんだ。良い事をするために、悪い事をしないといけない時があるんだ。」
言い含めるように、ベルナールは腕を組んだ。
「いいか。今は、良い事をしたからといって、報われる世の中じゃないんだ。そもそも今の社会の善悪は、一部の人間によってゆがめられている。誰かが根本から変えないといけないんだ。お前のような子供には、まだ分からないかもしれないがな。」
「まあ、失礼ね。」
ル・ルーの頬が膨らんだ。
「じゃあ、ロザリーお姉ちゃまを連れ去ったのは、許されるの?悪い事では、ないの?」
「・・・それは・・・」
痛いところをつかれたように、ベルナールは黙った。小さいル・ルーの背丈より、低くその肩が落ちた。
「・・・それは、悪いと思っているよ。」
「良かった。」
その返答を聞いて、ル・ルーは安堵した。
・・・この人、悪い人じゃないわ。
「じゃあ、いろいろと教えて欲しいの。え~と、まずね、なぜ、黒い騎士になろうと思ったの?」
腕の中のル・ルー人形の中から、ごそごそと紙とペンをとり出す。目の前の男はまるで助けを求めるかのように、視線を部屋に彷徨わせた。
「黒い騎士になろうと思った理由から、聞かせて欲しいの。」
にっこり笑ったル・ルーの背後で、窓からの光がゆらゆらと踊っていた。





スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

kakonokaori

Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ