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悪魔のくすり5

「愛している、愛している、アンドレ、わたしのアンドレ・・・」
繰り返されるオスカルの言葉に、アンドレは驚いて彼女と目を合わせた。
彼女はようやく落ち着きを取り戻し、微笑みまで浮かべていた。
「もう会えないと思っていたのに・・・また会えてうれしい・・アンドレ・・」
目の前の男の頬に両手をのばし、大事そうに触れてくる。
「もう、わたしから離れるな。狂いそうだった。今まで、どこに隠れてたんだ?・・・あれは夢だったのだな。戦いの混乱が見せた幻だったのだな?お前がわたしの側から消えるなど、ありえないのだから・・・」
「オスカル?」
アンドレは当惑した。彼女が何を言っているのか分からなかった。薬の副作用なのだとしても、それのみでは納得できない何かが彼女にはあった。自分を見つめてくる彼女の瞳の中に、愛情があふれていたからだ。身近で一番信頼される従者にそれまで向けていた類のものではない。愛おしくてたまらない最愛の恋人を見つめるなら、こうであろうというような煌めきの。
「落ち着いて、オスカル。」
子供に説明するように、アンドレはゆっくりと話し始める。
「きっと夢を見ていたんだよ。悪い夢を。戦いなんて、どこにも起きてやしないよ。それに俺はずっとお前の側にいるよ。・・・もっとも、ほんの少し離れてしまって、お前を危険にさらしてしまってすまなかったよ。あれは俺の油断だ。お前は変な薬をかがされたせいで、あのエベーラの部屋で倒れてしまったんだよ。目が覚めて、本当によかった。ロザリーもル・ルーも心配していたから知らせないとな。気分はどうだ?頭は痛くないか?ん?」
「何を言っているのだ、アンドレ?」
今度はオスカルが困惑したように眉をしかめる。
「エベーラ?・・・ああ、覚えている。あのインチキ薬師・・・」
記憶をさぐるように、彼女は眉をしかめる。アンドレに触れる手が少し緩まったので、彼がそっと身を離そうとすると、オスカルが傷ついたように見つめてきたので、ほんの少し体の向きを変えて、とにかくオスカルの体から降り、寝台に並んで寝転がる。
「ああ、インチキだな。あの女。王妃様に報告ものだな。」
「マリー・アントワネット様に?」
オスカルは考えながらも、傍らのアンドレの胸に頭を甘えるようにすりよせてくる。
「おい、オスカル!」
アンドレは堪らず叫ぶ。
「からかっているなら、やめてくれないか!俺の気持ちを知っているんだろう?さっき聞いてたんだろう?」
寝台から乱暴に彼は降りた。
「いや、お前はからかうようなやつじゃない。薬のせいで錯乱していても、とにかくもう俺に近づくな!」
これ以上触れていると、彼女にどんな辱めを与えてしまうか分からない。その一心だったが、オスカルは再び涙を浮かべながら、寝台から必死に起き上がろうとする。
「なぜだ、アンドレ?わたしを生涯かけて愛すると誓ったではないか。なぜ拒絶する?」
右手を軸に上半身を起き上がらせようとしたが、力がまだ入らないのか、あっけなく体は寝台に落ち込んだ。その姿をアンドレは近寄ることもできず、かといってこれ以上一歩も離れるなどさらにできようもなく、金縛りにあったように見つめていた。オスカルも静かに涙を流し続けながら、彼を見つめる。
風が窓を鳴らし、ろうそくが灯りを揺らす。
部屋の冷気が暗色に深まろうとする沈黙を最初に破ったのは、オスカルだった。
「アンドレ、お前の目・・・」
信じられないようにつぶやく。
「アンドレ、お前、目が見えるんだな・・・」
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Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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