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悪魔のくすり34

・・・伯爵は嘘などついてはいらっしゃらない。
長年、オスカルの傍らで親交があったアンドレには、フェルゼンが正直に心情を吐露しているのが分かった。
・・・オスカルがドレスを身にまとった、あの日、何かがあったのかもしれない。だが、それは男女としての仲を深めるものではなかったのか・・・?伯爵は、オスカルを女性として愛することはないと、今、断言しておられるのだ。
「失礼を致しました。伯爵のお言葉を信じております。」
男として、身分を越えて礼を尽くしてくれたフェルゼンに対して、恭しく頭を下げた。
・・・だが、なぜオスカルは伯爵と婚約などと嘘を俺についたのだ?それほど俺は疎まれたのか。
絶望が、アンドレの頭をよぎった。
「アンドレ、頭を上げてくれ。何かあったのか?」
心配気な声のフェルゼンに、肩に手を置かれ、アンドレは答えに窮した。昨夜からの顛末を話せるはずがなかった。
「オスカルお姉ちゃまに、出ていけ~!って怒鳴られたのよね。」
フワフワした髪の毛をなびかせたル・ルーが、ニコニコと答えた。
「それで、アンドレは荷物をまとめて飛び出そうとしたところで、お祖父様に私のお供を頼まれたのよね。」
「・・・ル・ルー!」
アンドレは度肝を抜かれた。どうして、そう赤裸々に・・・と。
案の定、フェルゼンは絶句していたが、アンドレが否定しないのを見てとると、大声で笑い出した。このように腹の底から笑い声を響かせるフェルゼンを、アンドレは初めて目にした。馬車を道に戻そうとしていた彼の部下たちも、全員驚きながら振り向いていた。
「ル・ルー、余計なことを・・・」
恨みがましさが自然ににじんでしまうアンドレに、彼女はすました顔で答えた。
「あら、私は大事なことに嘘をつかない質ですもの。アンドレにだってさっきから、ずっと、真実だけをお話ししているのに。いいこと?本当のことだけを、教えてあげているのよ。いいかげんに信じたらどう?」
少女は、アンドレの腰の高さから、腕を組みながら彼を見上げていた。
それはまるで、「ル・ルーの言うことを信じないからよ。ほら、婚約話なんてやっぱり嘘っぱちじゃない」と瞳が雄弁に語っていた。
アンドレは、突然、力が抜けた。
木の根元に、腰を下ろす形になった彼を見て、大笑いをしていたフェルゼンは、自分を恥じるように笑いをおさめた。そして、表情を改める。
「すまない。私は君たちが羨ましいのだよ。主従を越えて、本音で付き合える君たちはお互い得難い存在なのだ・・・特にオスカルにはね。彼女のように、他の誰とも違う困難な道を歩んでいる人間にとって、君という存在は欠くことはできないのだ。普通に笑い、普通に怒り、思ったままを語り合い、常に自分に寄り添ってくれることに疑問すら感じない、大事な存在なのだ。だから・・・」
そこで、フェルゼンから再び小さな笑いがこぼれた。
「だから、なぜオスカルを怒らせたのか知らないが、出ていくなど考えないでやってくれないか。おそらくオスカルも、その場のはずみで、そう怒鳴ったのだろう。私も、彼女に初めて会ったときには・・・」
遠い日の思い出が、フェルゼンの北欧の血を感じさせる瞳をよぎる。
「そう、かなり無礼な小僧呼ばわりされたものだよ。今では懐かしい思い出となっている。だから、私からのお願いだ。アンドレ、出ていくのは彼女のためにもやめてくれないか。」
「フェルゼン様って、話が分かるのね。とっても、素敵」
うっとりと、ル・ルーは貴公子を見詰める。
「オスカルお姉ちゃまとアンドレとは比べものにならないわ。二人とも、とっても頭が固いんだから。出ていけって言う方も言う方だけど、出ていく方も出ていく方なのよね。」
「そんなことは、ありませんよ。ル・ルー嬢。アンドレの苦労は並大抵のものではないのでしょう。」
「あら、そうかしら・・・アンドレがお姉ちゃまを甘やかすのもいけないのだと思うのだけど。」
「オスカルは並の人間ではない。アンドレはよくやっているのですよ。その彼に出ていけなどと・・・」
アンドレは、何故か楽しそうに続く二人の会話に口をはさむ余裕などなかった。
彼の頭の中は、一つの事で占められていたのだ。
・・・俺を愛している・・・オスカルが?・・・本当に、俺を?
ル・ルーの言葉を信じるなら、自分を守るために、愛しい女性は嘘までついて、あえて憎まれようとしているのだ。
・・・オスカル、お前の本当の気持ちが知りたい。俺たちは、愛し合っているのか?
オスカルの真の気持ちに戸惑うアンドレの耳に、フェルゼンの部下たちの声が飛び込んできた。
「暴れ馬だ!」
「連隊長!暴れ馬がやってきます!」
その一頭の馬は、ベルサイユの方角から、砂煙をあげてかなりの速度で駆けてきていた。



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「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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