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悪魔のくすり25

しばらく独りにしてほしい・・・
不安げなロザリーを下がらせて、オスカルは一人、息をつく。
少しめまいを感じていた。
「あと、どれほどの時間があるのだ。夕日が沈むまで私はここに留まることができるのか・・・」
砂時計の砂粒がゆっくりと落下していくように、彼女の命の花びらも枯れ落ちようとしていた。
・・・アンドレ、私はもう一度お前と一つになりたかったのだ。
パリへの出動前夜、片翼に大胆な誘いを掛けたオスカルだったのに、直前にやはり、ひるんだ。
その彼女に「怖くないから・・」と囁き、抱き上げ、寝台に運んだ彼だったが、しかしもう、やさしいだけの彼ではなかった。幼き頃からオスカルが慣れ親しんだ寝室は、その時から別の場に変貌したのだ。薄いカーテンが翻り、うねり、風が熱を巻き上げ、暗闇に月の光が走り、夜という忍ぶる音響が心の奥に隠された欲情を奏で出す。
男はもう待ってはくれなかった。
容赦してはくれなかった。
常に彼女から一歩下がる控えめな彼は消え去り・・・大きな体、熱い息、否応もなく導かれる女の自分。息一つ、指先一つまで思わぬ刺激にわななき、自分の意志で動かすことが出来ずにいた。眉をしかめ、金髪を流し、振り乱し、喉を反らせる。もし愛がなければ、それは人間の尊厳すら失わせる行為、ただの辱めなのに、ただ愛があるというだけで、なぜあれほどまで魂が震えるのか。
・・・あれは、私が真実、女になった瞬間だった。
たった一夜かぎりの。
生涯でたった一人、彼女を女にした男は、翌日死んだ。
・・・ああ、思い出した。お前が死んだあの日、亡骸の横で私の心に浮かんだ記憶は、あの夜のことであった。
彼女は思い出し、笑った。
・・・何十年もの思い出が、お前と私の間にはあった・・・幼き頃より幾多の出来事があったというのに。冷たくなったお前の傍らに寄り添いながら・・・なんとこのオスカル・フランソワの心を占めていたのは、私の上で野生の生き物のようにたくましく、激しく美しかったお前だった・・・
「私はもう思い残すことはない・・・」
幾多の部下を従わせ、情熱のままに軍人として生きた彼女は、枕元の白いバラに告げる。
「私は地獄に落ちるよ、アンドレ。だが、私は嬉しかった。」
過去に戻り、再び女となれた。
血を吐かせた病の兆候が、まだ訪れていないこの体に、愛の証しが刻まれた。
「ロザリー、心配しないでおくれ。明日目覚める私がたとえアンドレを失おうとも、この体には記憶が刻みこまれている。真実愛された記憶が。」
触れる黒髪の愛おしさに涙し、手の荒々しさに叫び、肌の熱さに震えた。
「そんな私は不幸ではないのだよ。そして、覚えていないほうがよいのだ。私は一生を軍人として生きるのだから。どのみちもう、それほど時間は残されていない、短い命なのだ・・・」
そうつぶやきながら、オスカルは目を閉じた。



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「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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