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悪魔のくすり19

寝室の床に広がる光の絨毯に、鳥の影が横切った。
・・・自由に、大空を・・・まるでこいつのようだ。
オスカルは、ル・ルーの驚くさまを前に、ふとそう感じた。
自分は、結局、古い足かせから逃れることは出来なかった人間だ。人生のほぼ全てを貴族として生き、その価値観は生涯ついてまわったのだ。人生の最後に、貴族の身分を捨て、フランス王室に反旗を翻したが、それまでの苦悩は並みのものではなかった。苦悩の重さに体は悲鳴をあげ、血を吐いた。それでも、アンドレにロザリー、ベルナール、アランと出会い、自分の意思を貫けたことは幸せに思う。
・・・だが、もしル・ルーが私の立場だったら、全く別の方法を見つけ出したのではないか?
革命の炎に命を捧げた自分が、何のいたずらか過去に戻ってきたことで、見えてくるものがあったのだ。もしル・ルーなら、男として生きることを強要されても、唯々諾々と従わなかっただろう。たとえ士官となっても、着たい時にドレスを身につけ、したいように恋をしたはずだ。ジェローデルに求婚されても、焦らしながらも断固としてはねのけたかもしれない。そして、アンドレ。
・・・私は、やはりアンドレに身分の差を感じていたのだ。神の御前で契りを交わすことが出来ない人間として。だから、心の奥にずっと存在していた愛に気付くのが怖かった。未来の自分がアンドレに体を許したのも、明日どうなるかわからない戦闘前夜だったせいだ。もっと早くこの身を与えられていたら!快楽を分かち合うのが罪など、なぜ思った?私の中を熱く駆け抜けていったお前は、世界で唯一の私の伴侶なのに・・・
だが、ル・ルーなら、身分の差など簡単に飛び越えるだろう。
ル・ルーがこの屋敷に来てからの行動力を思い出し、既成概念など蹴り飛ばすようなこの姪に、秘かに賛辞を贈る。
しかし、当の本人はとても不機嫌にオスカルの前に立っていた。
「オスカルお姉ちゃまって、馬鹿じゃないの?お姉ちゃまはアンドレがいなかったら、何も出来ないじゃない。それどころかとっくに死んでたわ。モンテクレール城でだって、窓から落ちたお姉ちゃまを助けたのはアンドレだったはずよ。」
それに、それに、と少女は続ける。
「ル・ルーがもしアンドレをお婿にしたいって言ったら、どうするの?賛成できる?」
「・・・それは当人同士の問題だ。私が口出しするようなことではない。」
平静を保ちながら、オスカルは答えた。
そのオスカルを見透かすようにル・ルーは上目使いになる。
「お姉ちゃま、本当にオスカルお姉ちゃまなの?違うわ。ル・ルーには分かるの。お姉ちゃまであって、お姉ちゃまでない。・・・昨日、会ったの。血まみれで悲しそうなお姉ちゃまの亡霊に・・・最初は、わたし、エベーラの薬で死んでしまったお姉ちゃまがアンドレを道連れにしに来たんだと思ったの。・・・だけど、違う。あのお姉ちゃまの亡霊は、アンドレを助けたがっていた。わたしのアンドレを助けてって言ってたの!今、ル・ルーの目の前にいるお姉ちゃまも、アンドレを何かから守りたがってる。わたしの側にいるのが安全だと思ってる。」
そこで、悲しい顔になる。
「お願い、本当のことを言って!お姉ちゃまは・・・誰?」
「ル・ルーちゃん・・・?」
静かに二人の会話を聞いていたロザリーが、オスカルとル・ルーを不安そうに交互に見る。
オスカルは、目を閉じ、しばらく考えた。あいまいな理由で誤魔化しながら、ル・ルーを説得することは不可能だったのだ。ロザリーにも嘘をついているのが心苦しかった。
・・・早くしないと、アンドレはこの屋敷を出てしまう。時間がない。
彼女は決断を下すしかなかった。
「・・・私は、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ・・・それ以外の何者でもない。だが、一つだけ異なる点がある。」
ゆっくり青い瞳を開く。
「未来から来たのだ、私は。神のお慈悲によって、私のために失われたかけがえのない者を守るために。・・・アンドレを。」
沈黙が流れた。オスカルの金色の髪が一筋、クッションの上から水のようにこぼれ落ちた。
「・・・信じるわ。」
コクリ、とル・ルーが頷いた。
「私も、信じます。」
ロザリーが、目を真っ赤にしながらル・ルーの肩に手を置いた。


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「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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