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悪魔のくすり16

・・・まるで黄金のバラのような・・・
薄いカーテンから差し込む朝日が、かの女性のまわりに渦を巻いていた。
寝台の上に、クッションを幾重にも重ねた上に持たれかけている顔は、豪華な金色に埋もれながらに白く輝いている。その瞳はまるで深海のしずくを閉じ込めたような深い青をたたえている。
・・・これが白いバラなものか!これは、この世には存在しない黄金のバラだ!
彼女に捧げるための白いバラを手にしていたアンドレは、己の不覚を恥じた。
世界で一番愛おしい女性は、さげすみと憎悪を隠そうともせず、自分を見つめていた。他者には理解されないが、オスカルは元来感情の起伏が激しい。そのオスカルでさえ、ここまでの感情を見せるのは稀なことだった。
今、彼女を輝かせているのは、激しい憎悪・・・!そして、それは自分によってもたらされたものだと、アンドレは彼女の目を見て悟った。
「オスカル・・・」
「気安く、私の名を呼ぶことは許さぬ!」
数刻前に、口づけを交わしあった唇が冷たく言い放った。
「お前は、薬で正気を失っていた私に何をした!なぜ私が、お前のような使用人に辱めを受けなければいけない!」
まばたきもせず彼を睨みつけている瞳が、怒りで細められた。
「お前はがここまで自分の立場を分かっていないやつだとは思わなかった。幼いころから共に育ったとはいえ、私とお前では立場が違う。なぜ貴族の私と、平民のお前が褥を共にできるというのだ。・・・もう金輪際、お前の顔など見たくない!今日中に、この屋敷から出て行け!」
「・・・・・」
深い絶望に沈みながらもアンドレは、やはり、と思った。自分は見てはいけない夢を見ていたのだと。彼女と苦楽を共にしてきたとはいえ、やはり自分は祖母の言うように、分をわきまえるべきだったのだ。昨夜もエベーラの薬の影響だともっと慎重に判断すべきだった。こんな何も持たない男に、彼女のような誇り高い女性が、いいように体を弄ばれたのだ・・・どれだけ、傷つけてしまっただろう・・・!
「オ・・・」
彼女の名前を呼ぼうとして、アンドレは首を振り、しかしまっすぐに彼女を見た。
「その通りだ。俺が卑怯だった。すまなかった。謝っても謝りきれるものではないのは分かっている。罰は受けるつもりだ。」
その方法は、たった一つのみ・・・
オスカルに向けた眼差しは、愛情深いものだった。
「俺を殺してくれ。俺の記憶ごと、この世から消し去ってくれ。俺は昨夜のことは、この命が続くかぎり、いやこの身が地獄の業火で焼かれようとも忘れることはできないだろう。・・・お前のような清廉で誇り高い人間にとって、存在すら許されないんだ。俺は、お前のためなら、いつでもこの命をくれてやる!だから、俺を殺して、お前はもうすべて忘れてくれ。」
「うるさい!知ったような口をきくな!死んで許されるとでもいうのか!」
オスカルは必死に体を支えながら、叫ぶ。
「死んで楽になろうなど、許さぬ!まして、私がお前を成敗したなどと人に知れたら、どんな噂が立つか分かるはずだ!・・・私は・・・」
オスカルは苦しげに言いよどむ。
「・・・私は・・・・フェルゼンから婚約を申し込まれた・・・・その私が、お前のような卑しい従者に体を奪われたなどと・・・フェルゼンに知れたら・・・私はフェルゼンを失う・・・」
アンドレの顔から血の気が引いた。まさか、その名を聞くとは思わなかったのだ。
・・・フェルゼンと・・・・お前は・・・・
・・・そんな、バカな!
・・・・昨夜の閨で繰り返された「愛している、アンドレ」との言葉は、幻想だったのか?オスカルが本当に愛しているのは、やはりあのオスカルに相応しい貴公子・・・
アンドレの膝から力が抜けた。
「・・・俺は馬鹿だ・・・」
床に手をつきながら、彼は必死に自分を保とうとした。限りない敗北感に襲われた。
自分の命など、あの貴公子の存在の前には塵のようなものだと。
オスカルの冷たい視線を受けながら、アンドレは壁を支えにようやく身を起こした。もう彼女に目を向けることも躊躇されたが、まだ手に持ったままの白いバラに気が付き、しばし考えた。
「・・・せめて、これを・・・庭師が今朝一番のバラを切ってくれたんだ・・・」
そう言って、そっとオスカルの枕元に持っていった。
・・・これが、俺からの最後の・・・
しかしオスカルは、精いっぱいの力でそのバラをはらいおとした。
「汚らわしい!出て行け!」
毛の深い重厚な絨毯の上に、それが落ちていくのを、蒼白なまま眺めたアンドレは、もう全てから目を背けるように、寝室から飛び出した。
「アンドレ!」
ロザリーの声が、彼が姿を消した廊下に、空しく響いた。


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Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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