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悪魔のくすり14

広い寝台の上で、オスカルは起き上がろうと試みた。
昨夜、目覚めた時よりも動くようになったが、だがまだ重く、上半身を起こして座ることもできない。
寝返りをうち、窓から空を眺めるのが精いっぱいだった。
「・・・懐かしい部屋・・もう何年も離れていたような気がする。」
戦闘の前夜にアンドレと夫婦となってから、彼女にとっての時間はまだ三日ほどしか経っていない。だが、この屋敷から永久の出発をした時から、過酷な出来事が彼女を襲い続けた。フランス国民を守るための軍隊に国王が下された、市民への攻撃。貴族の地位を捨て、愛する王妃のいる王室に反乱を起こしたこと。共に名もなき礎となることを誓った部下たちが次々に命を落とし、そして愛する夫が自分の盾になり、落命した。何も見えていなかったのに。自分をかばって!
「・・・!」
オスカルは、それを思うと今でも気が狂いそうになる。夫はとっくに失明していたのだ。アランを始め部下たちは皆知っていたのに、自分は何も気が付かなかった。自分のことしか考えていなかった。光を失うなど、どれほど大きな恐怖だったことか。なのにアンドレは、オスカルに悟らせず、それどころか迷い苦しむ彼女をやさしく支え続けたのだ。
・・・アンドレ、出動が決まったとき、お前は「馬をくれ」と言った。「俺を連れていかないなら、お前も行かせない」と迷いもなく言った。・・・私はどれほど深い愛をお前から受けていたのだ・・・
アンドレを失った日の事は、ほとんど覚えていない。敵の銃弾の前に身をさらしたが、誰も撃ち抜いてはくれなかった。アランに支えられ、戦闘を戦いぬいた後、アンドレの姿を求めたが、夫の亡骸はベルナールによって教会に運ばれていた。母親を亡くした幼子のように、オスカルは夫を探しもとめ、冷たくなった彼の傍らに身を投げ出したことだけは、混乱した記憶の片隅にあった。
「私の命など、神にでも悪魔にでもくれてやる。お前を助けるには、どうすればいい?」
オスカルは、過去にもどった体を抱きしめる。過去の夫にも激しく愛された体。痛みさえ、甘くいとおしく思える。
「私に残されたのは、今日一日だとすれば・・・動けないのは致命的だな。」
女の身体に、軍人としての冷静さを取り戻し始める。失敗は許されない、二度と。
「・・・とすれば、私の代わりに動ける人間が必要だ。アンドレ自身は、ダメだ。これから私がやろうとすることに、あいつは絶対に承知しない。父上、母上、ばあやもダメだ。・・・」
オスカルは決意していた。
アンドレの命と目を守るために、彼をこの屋敷から出すことを。
彼を自分から離し、安全な土地で幸せな一生を送らせること。
そのために、アンドレに憎まれ、恨まれるのも厭わない。
「許しておくれ・・・アンドレ。次にこの部屋を訪れたお前は、私を憎むだろう。」
彼の唇が何度も触れた乳房に手を当てながら、オスカルは哀しげに微笑んだ。
その時、寝室の扉をそっとたたく音がした。
「オスカル様?お目覚めですか?・・・ロザリーです。入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ・・・ロザリー・・・入っておくれ。」
遠慮がちなロザリーの声に、オスカルは安堵した。アンドレがやってくる前に、彼女が現れてくれたからだ。
「ちょうどいいところに来てくれたね。頼みたいことがあるんだ、ロザリー・・・誰にも内緒でね。」
扉から顔をのぞかせたロザリーを、オスカルは手招きした。
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Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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