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希望の行方40

全身に衝撃が走った。
腕と肩がちぎれるように痛み、腹が冷たい壁に叩きつけられる。
「ああ・・!」
苦痛に呻きながら目を開けたオスカルは、だが自分がまだ塔から地面に落ちていないことに驚いた。足は宙を切り、空はまだそこにある。
頭に熱い息が掛かった。
「・・・アンドレ!」
驚愕で開かれるオスカルの目のすぐそばに、苦痛で歪むアンドレの顔があった。
「・・・どうして・・?」
「・・・手を離すな、オスカル。」
片腕で自分を抱きしめ、もう片腕で塔の窓枠を掴んでいる男は、荒い息で言った。
「・・・あまり力が入らない・・・お前はディアンヌを離すな・・・アランが来るまで・・耐えてくれ・・・」
風が吹いた。
ロザリーの叫び声が聞こえる。
危うい状況に、オスカルは愕然となる。
飛び出したディアンヌに続いたオスカルは、咄嗟に彼女の腕を掴んだが、窓に手を延ばそうとして届かなかったのだ。彼女諸共、地面に叩きつけられる・・と覚悟したオスカルを温かいものが包み、とらえた。
ディアンヌの腕は、オスカルの右手がしっかりと掴んでいる。その黒髪の揺れるさまが目の端にうつっており、腕も温かい。
生きている。
その腕に力が感じられないのは、気を失っているからなのか。
だが、アンドレは、そんなオスカルを抱えながら、彼自身も宙づりになっていた。
女とはいえ二人の人間の重さを抱えながら、彼は窓枠に掛けた腕一つで落下をこらえているのだ。
すさまじい負担がその腕にかかっているのだろう、アンドレの息は増々荒くなっていく。
「アンドレ・・お前・・」
オスカルの目に涙が滲む。
どうしてお前は、いつもいつも私を助けてくれるのか。命の危険を顧みず、無鉄砲な私を支えてくれるのか。
・・・モンテクレール城でもそうだった。両方の掌の皮膚を破りながらも、お前は縄を離さなかった。
どうしてお前は、それほど私を愛してくれるのか。どうして私が辛い時苦しい時、いつもそばにきてくれるのだ。どうして、どうして・・・
彼女の目からどうしようもなく、涙があふれだした。
「すまない・・・アンドレ・・・」
「どうして・・・謝る・・?」
苦しい中なのに、彼は笑った。
「助かるんだ、俺たち三人・・・いや・・・」
眩しいものを見るような、不思議な目を向けてきた。
「・・・四人なのだろう?違うか?」
「アンドレ・・・」
オスカルは見つめ返す。黒い瞳の中に、これまで以上の温かさが満ちていた。
「俺たちの子か・・・オスカル?お前の中にいるのか・・・本当に・・・?」
「聞いていたのか!」
とんだ神の皮肉だと・・・オスカルはこの状況の中で可笑しくなる。
かなりの時間、アンドレに伝えられずに苦しんでいた事が、よりによってこんな場所で・・・落下死寸前の場所で呆気なくばれてしまったのかと。
「お前・・・立ち聞きはよくないぞ。」
気を失ったディアンヌを離さぬように痛みをこらえながら言うオスカルに、やはり痛みに呻きながらアンドレは言い返す。
「ああ・・・もうこりごりだ・・・」
「まだ、決まったわけではない。今日、医者に診てもらってから、お前に伝えようと思ったのだが。」
「はは・・・お前、医者の代わりに天国に行くところだったぞ、随分まぬけな母親だな・・・」
「馬鹿言え、父親も相当だぞ。」
もう力もあまり残っていないのだろう、苦痛だけが顔に浮かんでいる。汗がオスカルの顔にも滴り落ちてきた。アランのものだろう、塔を揺らすような激しい足音が響いてくるのが唯一の救いだった。
「・・・愛しているよ・・・オスカル・・・」
「私もだ、アンドレ。」
オスカルは胸が熱くなった。
これだけの会話だけで、アンドレが喜んでくれているのが分かる。
自分も、腹の子も、彼は心から愛してくれている。
・・・私は今まで何を悩んでいたのだろう・・・
彼はアンドレなのだ。
アンドレなのだ。
醜い大人の門を潜る前も、潜った後も、ありのままの自分を理解し続けてくれた。
・・・軍人の私も、女の私も、いつも彼は支えてくれていた。
もっと自分をさらけだせばいいのだ。話し合い、たとえ意見が食い違っても、彼は私を尊重してくれ、私も彼を尊重する。
・・・産むよ、お前の子供を。
始めて、心から素直にオスカルはそう感じることができた。
「おい、てめえ、離すんじゃねえぞ!」
アランの大声がした。
「おめえら、全員、一気に引き上げるぞ!」
その言葉通り、どこからそんな力が出るのか、ガクッと視線が動いたかと思うと、オスカルの身体はアンドレ共々、一瞬で塔の中に引きずり込まれた。野生の犬のような汗の臭いがしたかとおもうと、こわばったオスカルの手の先にいるディアンヌも軽々と持ち上げられ、奪われた。
「・・・馬鹿野郎・・ディアンヌ・・・馬鹿野郎・・・」
妹を抱えたアランは泣いていた。むせび泣いていた。
「ディアンヌ嬢は気を失っているだけだろう、アラン。」
床のある安心感にこわばった体を伸ばしながらオスカルは声を掛ける。
「だが、腕を痛めているかもしれない。医者に診てもらったほうがいい。それと、お前にはしばらく休暇を与える。ディアンヌ嬢の傍にいてやれ。これは命令だ。」
「隊長・・・」
泣いている顔を見られたくないのか、一瞬視線をはずしたアランだったが、すぐにまっすぐにオスカルを見た。
「隊長。」
そして彼はディアンヌを抱えたまま、軍人の最敬礼をとる。
「アラン、馬車で送るよ。しばらく馬車の中で休んでろよ。」
床に転がったままのアンドレが、言う。
「ほら、ロザリーがもうすぐ来る。手伝ってもらえ、俺は・・・まだ動けん。」
甲高い声と共に現れたロザリーの泣き笑いがひとしきり済むと、彼女を従えてディアンヌを大事そうに抱えたアランは、アンドレに頷くと、階下に消えていった。
「・・大丈夫か、アンドレ?」
座り込んだオスカルは、倒れたままのアンドレを一瞥する。
「お前、なかなか力があるのだな、驚いたぞ。」
塔の切り出した窓の外は、青空だった。どんよりとしたパリには珍しいほどの青が広がっていた。
オスカルはその青がディアンヌの悲しみが溶けて生まれたように思え、目が離せなかった。彼女の苦しみは、これからも長く長く続くのだろう。助けた自分を恨む日もあるのだろうか・・眠れぬ夜を幾夜過ごすのか・・・とめどなく想いを馳せるオスカルだったが、涙にまみれながらディアンヌを抱えていたアランの姿に、希望をつなぐ。
・・・生きてくれ、ディアンヌ。
頬に手をやると、まだ涙が残っていた。
・・・ふふ、私も泣いていたのだから、おあいこだな、アラン。
後ろから腕が回された。
「アンドレ?」
その腕はやさしく、しかし力強くオスカルの身体を引き寄せ、倒し、包み込んだ。いつの間にか彼女は、床に寝そべったままのアンドレの身体の上に横たわっていた。
「アンドレ、怪我はないか?」
覗き込む彼女に何も答えず、アンドレはただギュッと抱きしめてくる。
「・・・アンドレ」
優しく囁くオスカルに、彼は駄々っ子のように何度も首を振り、腕を離そうとしない。
何度も頬ずりをし、オスカルの温かさを確かめ、存在が失われなかったことにようやく納得したのか、彼は呟く。
「馬鹿野郎・・・馬鹿野郎・・・馬鹿野郎・・・オスカル・・」
泣いていた。彼はオスカルの頬に自分の頬を押し当てながら、泣きじゃくっていた・・・まるで出会った頃の子供のように。
「・・・すまなかった・・・」
オスカルは目を閉じ、彼を抱きしめ返す。
瞼の裏に、青い空が広がった。


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ありがとうございます💕

更新 ありがとうございます。

毎日お待ちしていました!
なんてタイミングのよいアンドレ。アンドレの愛に、自分で創った妄想で悩んでいたことに気づいたオスカル。
あったかくて素敵です。

さあー、これからどうなっていくのか?益々楽しみです。

人心地つけました。

アップ頂いた40話,おそるおそる拝読しましたが… 

緊張感溢れつつも,最後はほっと一息つけるお話,ありがとうございました。オスカルさま,極限状況の中で,アンドレの愛情とアンドレへの愛情が,体中に染みわたりましたね。

…とは言え,やっぱり次回のお話は怖いわ…。ふっと緊張を緩めた直後にどかーんと来そうな…。遊園地にも行ってないのに,まるでお化け屋敷に入った気分です(あ,例えが悪いですね。すみません。笑)。

でもでも,やっぱり次話,楽しみにしてますね。

ああ、良かったです

更新?

と思いながらドキドキしながら読ませていただきました。

アンドレ、ありがとう!の気持ちです。
傷心のディアンヌだけど、アランが生の世界に引きずってでも戻して行くように感じました。

本当に本当にみんな無事で良かったです。


次回更新も楽しみにしていますね。

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No title

 か、感激で涙が出そう…。

 オル窓のレナーテ宙釣り場面(あの場面のヴィルクリヒ先生の落ちてゆく時の台詞が格好よくて大好きなんですが…)ってどうなるんだろう…と、ビクビクしておりましたが…。

 オスカルも文中で思ったように、本当にアンドレはやっぱりアンドレでした。(アンドレのオスカルへの愛に目がハート型でした。)
なんという感動的なやり取りなのでしょう。オスカルも迷いを払拭しましたね。

 今回はいつにも増して再読間違いなし!です。あぁ、素敵。

 でも、このままではないことは重々承知しております。何がきても覚悟はしておりますよ。

ともあれ、この幸せに暫くは浸らせていただきま〜す。更新ありがとうございます。

ひろぴー様

お待たせしました!

毎日、待って頂いていたのですね。
昨日、なんだか続きを書きたい衝動に襲われたのは、そのせい・・?

予想よりも温かい話になってしまい、驚いております。
最初はアンドレ目線で書いていたのですが、しっくりこなくて書き直しました。

嵐の前の静けさかも。
では、また!

ぶうとん様

予想外に甘い話になってしまいました・・
アンドレのパワーに押し切られたような。

何をどうしても相思相愛カップルはラブラブです。

ですが、この先、お化け屋敷に何が現れるのか・・恐ろしいですね。
嵐の前の静けさ、かもしれません。

では、また!

依久様

今回はアンドレもアランも頑張りました。
特にアンドレは、ヒーローです!まさしく、ありがとうですね。

ディアンヌ事件は完全に解決してませんが、原作のような哀しい結末は回避したいものです。

今回だけは幸せで甘々なお話で、私も嬉しいです。

では、また!

j・・様

色々、想像して下さっていたのですね。

実は、アンドレが子供のことを知ることに関して、別のパターンを考えていたのですが、いざ書き出してみると全く違ってしまいました・・随分救いのある展開になったと思います。
例えこの先、谷あり谷あり谷ありでも、大事な絆は失われないのでしょう。

すごく気持ちのこもったコメント、いつもありがとうございます。

では、また!

くろ・・様

今回のアンドレは、かっこよかったですよね~
きっと汗と涙でボロボロなのでしょうけど。

次回からどういう展開になるか・・漠然とした不安は皆さんお持ちでしょうが、その前に暫し、幸せな時間を楽しんで頂けたのなら嬉しいです。

そろそろル・ルーが登場するかも。

では、また!

mars様

感激とは!
こちらも感激です!

もっとオルフェウスの窓っぽくしようと思い、宙づりになった後の各々のセリフも決めていたのですが、全然違ってしまいましたね・・・

オスカルとアンドレにしてやられました!
あの二人には敵いませんわ・・

幸せは長く続かないかもしれませんが、この先の大きな幸せが二人を待っている!ということで。

では、また!

ほっとしました〜よかった〜!

超こわ〜いつづきを想像していたのでほっとしました
しかも、アンドレに気持ちも込みで伝わっちゃいましたね、小さな命のこと!
この先のお二人、どんな感じになるのかまたまた楽しみです!

更新ありがとうございます😊
2人の希望が、消える場面を想像していたので、今回の二人の愛あふれるやりとりに、すごく、うっとりしちゃいました💖💖

原作のイメージの二人が、まだ生きていて元気にしているストーリーを感じられ、いつも、幸せです💕💕

これからも楽しみにしています。毎日、暑いですが、体調には注意して頑張ってくださいね😊

No title

毎日更新を楽しみにしていたのですが、
最悪のことも考えて恐る恐る読ませていただきました。

オル窓みたいになるのかとビクビクしていましたが
良かったです!(^^)!
さすが、アンドレです。

「嵐の前の静けさ」で、「今回だけは幸せで甘々話」なようで・・・

ドキドキしながら、覚悟して次のお話も楽しみにしています。

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みか様

超こわ~い続きって、どんなご想像を・・

どさくさ紛れでアンドレに伝わりましたが、結構いい感じではないかと思っております。
また新たな関係の二人になるのでしょうね。
(ああ、どんどん原作から離れていく・・・)

お楽しみに!

ASUKA様

宙づりになってもラブラブな二人の回でございました。

二人は原作よりも幸せになるはず!
でなければ、二次創作の必要なし!

・・・と根本では思っていますよ~。Sサイトながら。

ASUKA様も、暑さにはお気お付け下さいね!

みぃちゃん様

本当はですね~、もっと劇的でドラマチックな展開になるはずだったのです。「オル窓」ばりにね。
なのに、アンドレに展開を変えられました!

まあ、こういう回があってもいいかな、と。
この先の道のりに耐えれるエネルギーを充電の回でした。
私も楽しかったです。

では、また!

ポ・・様

お久しぶりです!
かなりお忙しかったご様子ですね。お体にはお気をつけて下さいまし。

当サイトも、ほとんど更新出来ていない有様ですので、お互いゆっくりとじわじわと楽しんで参りましょう。

思えば、「こんなラブラブの回って、はて何か月ぶり・・?」と振り返っていますが、たまには二人の絆を再認識するのは嬉しいものです。(ベルばらファンなら当たり前ですよねぇ)

コメントもご無理なさらぬよう。
読んでいて頂けるだけで嬉しいです!

では、また!

す・・・様

ここで間に合わなったら、アンドレも立場がなかったでしょうね・・・本当に・・恐ろしい・・

書きかけてやめたアンドレバージョンでは、立ち聞きするアンドレの姿がばっちりだったのですが、幻になってしまいました。
いつかどこかに入れられたらいいなあ。

これから、いろいろあるでしょうが、今回とにかく皆様に喜んで頂けて、嬉しく思います。

では、また!

祝・サイト開設2周年!

サイト開設2周年,おめでとうございます!また,私たち読者を長いこと楽しませて頂き,ありがとうございます。 

昨年の今頃,どんなお話が展開されていたかしら…とみてみましたら,ちょうどアラン初登場の頃だったのですね。…思えば,ベル夢アランも随分と成長致しましたね(^^)。ディアンヌを抱きかかえながら,隊長に最敬礼するアラン,素敵です。

…これからも,わくわく(+びくびく)更新をお待ち申し上げます。kakonokaoriさんのペースでこれからも長~く,私たちを楽しませてくださいますよう。


ぶうとん様

あれま~二周年ですね!
覚えていて下さって、ありがとうございます!

アラン初登場から一年、ストーリー的にはあまり進んでおりませんが、確かにアランは変わりましたね。
最初はアランが苦手で苦手で、どうしたものかと危惧しておりましたが、何とかなるものです。

この二年、ほぼ一定人数の読者さんがついてきて下さっており、とても嬉しく思っております。
(最初の「悪魔のくすり」からお読み頂かないと、なんのこっちゃ分からない話なので、これだけ大勢の皆さまについてきて頂いているのは、奇跡です・・!途中から一気読み参加の皆さまもありがとうございます!)

まずは自分の楽しみのために続けておりますが、それをお名前も身分も国籍も未知な方々にお読み頂いて、細々と続いていくのは素敵なことだなあといつも感じております。コメントを頂戴しても返事が遅かったり、短かったり、そっけなかったり、時にはお返し忘れもあるかもしれませんが、いつも凄く喜んでおりますのですよ。

これからも更新は遅いですが、確実にラストまでたどり着きますので、ぶうとん様はじめ皆さま、宜しくお願い致します!




プロフィール

kakonokaori

Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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