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希望の行方16

「アンドレ!アンドレ!」
今、己の目が見たものを幻かと疑いながら、オスカルは床に倒れ込んだアンドレを抱き起す。
まるで糸が切れた操り人形のような倒れ方であった。抱き起した顔には血の気が感じられない。
「しっかりしろ!」
彼の頭を抱きしめると、息が頬に当たる。
ううっ・・と男の声がもれる。
「目を開けて、私を見ろ。」
気が気ではなく、オスカルが覗き込むと、黒い瞳がゆっくりと現れた。
「ああ・・オスカル・・・」
瞳が愛おしげに瞬いた。
「オスカル・・・俺のオスカル・・・」
「痛むところはないか?お前、急に倒れたのだぞ?」
意識があることに安堵した彼女は、そう優しくない口調で尋ねた。心配のあまりのことである。
「倒れるほど具合が悪いなら、そう言え!馬鹿者!」
普段のアンドレであれば、そこで軽口の一つもたたくものである。
しかし、腕の中のアンドレは、何も返さなかった。先ほどのやり取りが引き起こした絶望感に再び襲われたオスカルであったが、なぜかアンドレの様子がおかしかった。
「・・・オスカル・・・ああ、オスカル・・お前の顔が見える・・・」
彼の手が、オスカルの顔に触れる。
「お前の目が、鼻が、口が・・・見える。オスカル、俺のオスカルだ・・やっと会えた・・」
「・・・アンドレ・・・?」
腕が怯えた。思わず彼から離れる。無意識の自衛であったのかもしれなかった。
・・・違う・・・!
直感が、オスカルを襲う。
「・・・お前、誰だ?私のアンドレではない・・・」
直前の摩訶不思議な光景が脳裏に浮かんだ。
窓の外に見えたアンドレの姿は・・・血に染まっていた。
・・・まさか!まさか、お前は!
信じられぬことであった。
だが、未来の自分が現れたのなら、必然的に未来のアンドレをも・・存在するはずであった。
「ああ、オスカル。」
彼が猛烈な勢いで、彼女を覆った。
「ずっと、ずっと探していたんだ。探して探して探しぬいて、ようやく見つけた。俺はお前を探して狂ってしまった・・・!やっと見つけた!ああ、神よ!あなたを恨んだが、ようやくめぐり合わせてくれたのだな・・・!」
「・・・お前は・・・あっ・・・!」
逆らうこともできぬままのオスカルに、彼は激しく口づける。
その激しさは、まるで何十年も生き別れた恋人に、やっと再会したように、狂おしく燃えるものであった。恐ろしさに逃れようとするオスカルの頭を加減も忘れたように掴み、アンドレは己の口から離そうとしなかった。
やがて抵抗するオスカルの体から力が抜けた。
この世界に他に何も必要としないほどの愛が、哀しく彼女に伝わってきたのだ。
永遠のような時が過ぎて、彼はようやくオスカルの唇を開放し、その瞳を覗き込んでくる。
「ああ・・・オスカル、俺の妻よ。」
愛おしげに彼が言った。
確かに・・・そう言った。
確信が衝撃のようにオスカルを震わせる。
・・・やはり!お前は!
そう・・・何故だか分からないが、目の前のアンドレに今、宿っているのは・・・未来のアンドレの魂なのだと。
荒唐無稽ではあるが、本能がそう、告げている。
「・・・お前が逝ってしまってから、ずっと探していたんだ。俺は魂になってからもお前を見守っていたのに、お前の魂は俺を見つけることなく消えていってしまった。」
涙を溢れさせながら、彼の手は何度もオスカルの顔をなぞる。
「・・・ずっと探していた。過去も未来も彷徨い、もう会えぬと絶望していた。まるで悪霊のように彷徨い歩いて・・・苦しかった。もう一度、お前に会いたい、それだけを夢見ていた。」
「・・・アンドレ・・・?」
恐る恐る名を呼んだ口に、男の指が触れる。節くれだった指が、女の唇の柔らかさを確かめるように動く。
「・・・お前の顔が見える。これは・・・神の情けなのか・・?死んでさえ見えなかった目が、こうしてお前を再び映し出してくれるとは・・・」
恐ろしいぐらい真剣な目が、降り注ぎ、オスカルは息苦しくなる。耐えられずに目をそむけると、彼の掌が両方の頬に添えられ、上向かせられる。
・・・違う!
彼女は叫びたかった。
・・・私は、お前の私ではないのだ!私は、まだお前の妻ではない!
拒絶されたのだと、大声で嘆きたいほどの悲しみが、胸に痛みを走らせる。抱いてほしいと願った自分を拒絶したアンドレの冷たさと、目の前の自分を求めるアンドレの落差に、オスカルは運命の強烈な皮肉を感じた。
「・・・オスカル、愛しい妻よ・・」
再び彼が抱きしめてきた。その唇は、額に、頬に、首筋に押し当てられる。その腕は、彼女の身体を確かめるように動き、やがて両腕に抱き上げた。
ゆっくりと、その足は寝台へと向かう。
当然のように自分を寝台に横たわらせ、男が覆いかぶさってくる。
「夢見ていた・・もう一度、お前をこの腕に抱くことを・・・」
オスカルの心臓は破裂しそうであった。
違う、私ではない!
そう叫び、はねのけようとした。
その決意は・・しかし、自分の頬をも濡らす男の涙に凍った。
悲しみが、見えた。
いつも彼自身を犠牲にしてさえ、自分に愛を傾けてくれていたアンドレの姿が、重なる。
目の前にいるアンドレは、どれほどの長い時、彼のオスカルを探し求めて苦しんだのであろうか、と想像しただけで辛くなる。
そして、アンドレはどのアンドレであっても、彼女には愛おしい存在に変わりはなかった。そう、未来の自分をアンドレが愛したように。
「・・・苦しかったのだな、アンドレ。ずっと一人で孤独であったのだな。可哀想に・・」
仰向けのままで、男の涙をぬぐってやる。
「お前が探しているのは、オスカルという名の女なのだな。私の名もそうだ、このような男の名を持った女は、どこを探しても他にはいないだろうな・・」
寂しさに呼応するように、彼女の慈悲が、優しさが二人を包む。彼女は笑みを浮かべた。
「そうだ、私が・・オスカルだ。お前のオスカルだ。」
「ああ・・オスカル!愛している!」
男は狂ったように、彼女の身体を愛撫し始める。
お互いの衣服も、たちまちのうちにはぎとられ、肌の熱さが直に触れ合う。
オスカルは何度も怯え、声をあげた。
だが逃げ出そうとはせずに、男の狂気のような愛を真正面から受け止めた。
翻弄する激しさは、汗と涙の中で女に我を忘れさせる。
死ぬほどの喉の渇きを潤すように、男の手は留まることを知らなかった。
そうして、幾刻が過ぎただろうか。
夜の闇に、朝の匂いが漂い始めた頃、
自分を何度も奪った男の腕の中に、やがて彼女は落ちていった。
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t・・様

早速のコメントありがとうございます。

一話で終わらそうとしたのですが、長くなってしまい二話に分けました。
もう途中で止められなかったのですよ。

アンドレ押し倒しをお考えだったのですね。惜しい!
素直にそう行かないのが、当サイトのいいところ、このような顛末になってしまいました。

悪魔のくすりの始まりがあれでしたので、その逆バージョンもいずれあるだろうなと思っておりましが、
100話以上の時を越えて、このような運びを迎え感無量。

もうついていけない!という方はごめんなさい。
でもいずれこうなる運命であったのでしょうね。

次回からは新たな関係が始まるはずです。
ややこし過ぎて、頭がこんがらがりますが・・

では、また!


みさ・・様

コメントありがとうございます!
いつもお読みいただき感謝です。
大切にだなんて、いや、そんな、照れますね~

今週中に、どうしても、どうしても!
ここまではアップしたかったのです。
本当は次回のアンドレの回までたどり着きたかったのですが、
それはさすがに無理かもです。

しばらく間があくかもしれませんが、また宜しくお願いします!


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くろ・・様

はい、こうなっちゃいました・・
何と言いますか、ごめんなさい・・ごめんちゃい、です。

確かに幸せからほど遠い二人ですが、これはいずれ通らねばならない道だと思ってくだされば・・。

アンドレにはそもそも未来からの呪縛という恐ろしい呪いがかかっています。
(うっかりとそんな話を初めてしまったもので・・)
二人には俗世での様々な戦いがありますが、未来からの呪縛にも勝たないと、本当の幸せは訪れません!
なので、オスカルにも同じ経験を・・・ということで。

まあ、最後は幸せになるでしょう。
どんな道筋を通るのか、私にも???

あまり首が長くなられないうちに更新したいものです。
では!

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A・・様

どれだけ長い感想を送ろうとされたのか、非常に気になります。
長すぎるのはダメなんですね、私も初耳です。

いろいろな事が起こりすぎて、アンドレも気の毒です。
彼には思うことが満載なのでしょう・・これからも。

ドキドキ楽しんで頂ければ本望です。

では、また!

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す・・様

早速ですが、17話をアップしました!
これでようやく拉致事件は一区切り。(後半は拉致事件ではもはやありませんが)
安心して仕事にまい進できます。

アンドレの必死の計画(他の男性と結婚させるという)は、もろくも崩れ去りました。
これは未来のアンドレのおかげですが、そうですね~未来のオスカルとアンドレはどうなるのでしょうかね~まだ私もわかんないです~

ゆっくりお読みくださいね!
プロフィール

kakonokaori

Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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