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悪魔のくすり10

それは昨夜、オスカルとアンドレが涙を流しながら情を交わしあう少し前の事だった。
庭園の片隅に買い始めたウサギの様子が気になったル・ルーは、アンドレに部屋に放り込まれたあとも、懲りずにこっそりとその小さい生き物たちの様子を観察に行ったのだ。昼間、ある意味敬愛する、叔父のような叔母が倒れたからには、原因解明には自分の力が必要だと痛感していた。
「だって、オスカルお姉ちゃまはバカ正直っていうか、真面目っていうか、直情径行っていうかそんな感じだから、危ないところにわざわざ飛び込んでいく解決方法しか知らないんだもの。」
ル・ルーはため息をつく。
「だから、お婿ももらわずに軍人なんてやってるんだわ。そんなお姉ちゃまに付き合えるアンドレって、希少よね。お姉ちゃまにべったりでなかったら、私のお婿になってもらうのに・・・」
月明かりが照らす庭園を、怖がりもせずにスタスタと少女は歩いた。豊かなくせっ毛が風で揺れる。ウサギの飼育小屋はもう間近だった。このウサギたちに、彼女はエベーラの薬を餌に混ぜて与えたのだ。彼女自身でもちょっぴり残酷だと思ったけど、何十人もの人間が騙されて人生を狂わされていくかもしれないことを考えたら、他に方法がなかった。もし彼女が大人で、意見に耳を傾けてもらえる立場にいたら、もっと他にやりようがあるだろうが、残念ながら、ル・ルーは子供でしかない。
「あら?」
ル・ルーは足を止めた。通り過ぎた傍らの小道に、人影を感じたからだ。彼女は戻って、その小道を覗きこんだ。
「だあれ?誰かいるの?」
その小道はバラ園に面していて、その世話をする庭師程度の出入りしかない。比較的背の高いバラの茂みのために、月の明かりも影をさし、手に持った灯りで照らしても暗い。だが、確実に何かがいる。
・・まさか、泥棒?
危険を屋敷の隅々に知らせるため、ル・ルーが金切声をあげようと大きく口を開けた。
その時、暗闇からすっと、現れたのだ。
それが。
「オ、オ、オスカルお姉ちゃま!」
ル・ルーは叫び声をあげようとした口を、そのままあんぐりと開けてそれを見つめた。
それは、顔といわず体といわず全身を血に染め上げたオスカルだった。
「どうしたの、お姉ちゃま?怪我したの?」
ル・ルーは慌てて駆け寄った。その背筋に冷たいものが走った。
透けていたのだ。オスカルの体が。オスカルの背後にあるバラの茂みが、ぼんやりと見てとれたのだ。よく見れば足もヒザから下がはっきりしない。
・・・まさか、お姉ちゃま、今息を引き取ったの?
この上なく哀しい結論に達したル・ルーは涙をこらえながら、気丈にこう告げた。
「オスカルお姉ちゃま、さぞかしご無念でしょう。ル・ルーがきっと仇をとってあげる。だから天国に行ってね。」
オスカルは、ゆっくりと目の前の姪に視線を向けた。人形をぎゅっと抱え込む彼女を認めたように、わずかに瞳を開く。
「・・・ル・ルー・・・」
その青い唇から声が漏れた。血の気を感じさせない白い、無表情があった。
「・・・助けて・・・」
「お姉ちゃま?」
「・・・助けて・・・アンドレを、私のアンドレを助けて・・・・」
「アンドレを?」
問い返したル・ルーにもう何も告げず、オスカルは姪の横を静かに通りすぎて行った。一瞬遅れてル・ルーが振り向くと、そこには誰の姿もなかった。
「消えた・・・」
血の匂いはそこには認められず、ただバラの香りが月の放たれているばかりだった。
「私のアンドレ、を、助けて、ってお姉ちゃま?」
謎を抱え込んだル・ルーは、ウサギの元へ向かうのを忘れ、屋敷に走った。




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Author:kakonokaori
「ベルサイユのばら」の二次創作です。個人的な楽しみで執筆しております。原作関係者の方々よりクレームを受けた際には、中止します。お目汚しではございますが、お好きな方はご訪問下さいませ。

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